炊き出しに並ぶ人々。ホームレスは少数派、タワマン在住も…貧困転落の防波堤
- 茂 鈴木

- 2022年6月8日
- 読了時間: 4分

新型コロナでより深刻度が増した貧困問題、それに追い打ちをかけるインフレの嵐――。ただでさえ厳しい暮らしを強いられている低所得者層の生活が今、インフレによって脅かされている! ⇒【写真】531人が集まった炊き出しの現場
正規雇用者の姿も……貧困転落を防ぐ防波堤、炊き出しに並ぶ人々
4月23日土曜日。新宿の都庁第一本庁舎の前にある高架下で、認定NPO法人自立生活サポートセンター「もやい」が、生活困窮者に向けた炊き出しを開催した。すでに食料品配布を開始する1時間前の13時には、200人近くが列をなしている。最終的に、男性458人、女性73人の計531人が集まった。炊き出しの主催者で市民活動家の大西連氏は、昨今の現場の様子をこう語る。 「新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、’20年4月から、月2回の開催を毎週に変更しました。当初の参加者は100人前後でしたが、今では平均500人以上が参加しています」 ボロボロの洋服でいかにもというよりは、小綺麗な格好をし、「本当に生活困窮者?」と思わせる装いをした男女が目立つ。
見えない貧困が拡大
「もともとは、失業者やホームレスなど、収入が途切れた人たちを対象にしていました。ですが今や、物価高で生活が苦しくなった子連れのシングルマザーや月収15万円前後の正規雇用者など、想定していなかった層も生活防衛のために炊き出しに訪れています。見えない貧困が拡大し、炊き出しの現場もこれまでとは違った景色になっています」 インフレによる社会不安が幅広い層に広がり、支援現場の様相を変えている。その実態を探るべく、列に並ぶ人を直撃した。
僕のようなホームレスは少数派
独身の大沢幸弘さん(仮名・59歳)は、9年前に親の介護のため、それまで勤めていた商社を退職し、時間の融通が利くという理由から「なんでも屋」を開業した。だが、新型コロナが直撃、収入が途絶えたのをきっかけに、住んでいた首都圏郊外の賃貸アパートを引き払い、上野界隈でホームレスを始めた。今から9か月前のことだ。 「思うように収入を伸ばせず、貯金も底を突いた。張り詰めていた糸が切れて、家族に何も告げず、人目を避けるように家を飛び出しました。姉弟も余裕があるわけではなく、僕が住んでいた地域は閉鎖的だったので、生活保護を受給したら家族全員が白い目で見られてしまうから頼れませんでした」 収入のない大沢さんは、さまざまな炊き出しで食料を調達し、飢えを凌いでいる。 「どこの炊き出しも、僕のようなホームレスは少数派。むしろシングルマザー、学生、非正規社員、年金生活者など、家計の節約のために来ている人のほうが多い」
バスを乗り継いで来たタワマン在住の男性
家のない大沢さんとは違い、谷岡友和さん(仮名・61歳)は、間取り2LDKの、湾岸エリアのタワマンで独身生活を送っている。大手鉄道会社に正社員として入社した彼は、4000万円のマンションを10年ローンで購入し完済している。だが、10年前に社内のいざこざに巻き込まれて、警備会社に転職。現在は、同社でシニア枠の正社員として働き、月の手取りは14万円ほどだ。 「家賃はゼロですが、エネルギーの高騰で今冬の月の電気代が例年の1.6倍、1万円まで跳ね上がった。年齢的にも、夏や冬はどうしても冷暖房がないと辛いので、電気代の高騰はかなり痛い。ほかにもバスのお得な紙式回数券の販売中止など、目に見えない値上げやコスト増が家計に響いている」
さまざまな物価高の影響で出費が増大。貯金に回す余裕はない。 「年金は年間200万円くらいなので今より生活が良くなることはない。インフレが続くと、もう削れるのは食費とNHKの受信料くらい。だから昨年9月から定期的に一日バス乗り放題の乗車券を500円で買って、複数の炊き出しを回って食費を浮かしています。今日の炊き出しは3食分になるので、コスパは最高です」
正社員採用も初任給までの食費が足りない
SEとして正社員採用され、先月4月に関西から上京してきた吉田陽介さん(仮名・24歳)も、節約のために炊き出しを頼る一人だ。 「初任給(額面18万円)が振り込まれるのが5月末。それまで全財産の2万円で凌ぐしかない」 少しでも家賃を抑えようとボロアパートを借りた。だが、IHが壊れていて自炊ができず、この物価高の影響で食費がかさんでいる。 「携帯代、光熱費などを考えると使えるお金はほとんどない。うまい棒のコーンポタージュ味をお湯で溶かして飲んでいましたが、1本12円になっていて2円の重みに震えています。この後、池袋の炊き出し場に自転車で向かいます」 「正社員でもお金がなくて今、困っているから受けられる支援は遠慮なく」と、炊き出しに気軽な気持ちで訪れたという。
“貧困”に転落させない
炊き出しが今や“貧困”に転落しないための防波堤であり、家計節約術にもなっているのだ。 【市民活動家 大西 連氏】 認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長、新宿ごはんプラス共同代表。著書に『絶望しないための貧困学』(ポプラ社)など
<取材・文/週刊SPA!編集部> ―[インフレ直撃![低所得層]の苦境]―
日刊SPA!
6/8(水) 8:52



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