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60〜70代で病気になったら、どんな「老後」が待っているのか

  • 執筆者の写真: 茂 鈴木
    茂 鈴木
  • 2022年10月13日
  • 読了時間: 8分

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年収は300万円以下、本当に稼ぐべきは月10万円、50代で仕事の意義を見失う、60代管理職はごく少数、70歳男性の就業率は45%、80代就業者の約9割が自宅近くで働く――。

いま話題のベストセラー『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』著者・坂本貴志氏へのインタビュー。定年後の仕事や生活、男性/女性、地方/都市でどのように違うのだろうか?


60代からの仕事と生活、男女で違いは?

――60代以降に病気になってもなんとかなるものでしょうか。

坂本 医療費は多くの人が心配するほどはかかりません。高齢期には平均で月2万円弱です。高額療養費制度などがあり、医療費は所得に応じて上限額が決まりますので、働いていない人がたくさんの医療費がかかった場合でも、制度によって負担を抑えられるようになっています。ですから支出に関しては過度に心配する必要はありません。ただ、病気になると働けなくなりますから、収入面では年金に頼らないといけなくなります。そのときに備えて貯蓄しておくのは大事です。


――僕の父親は70歳前後でパーキンソン病になって働けなくなったのですが、「年金だけでやりくりするのはきつい」と漏らしていると母が言っていましたね。

坂本 病気になって働けなくなると収入が減りますが、収入も貯蓄も尽きた場合には、最終的には生活保護制度に頼ることになります。生活保護の受給者の多くは高齢者です。ですから働けるうちは働く。働けなくなったら貯蓄で暮らす。それも難しくなった場合は生活保護を申請することもできます。日本はそういう社会保障制度の建て付けになっており、高齢期の就労促進を図るとともに、こういった福祉を充実させることも重要になります。


――独身の高齢者の場合、二人以上世帯とは何か変わりますか。

坂本 基本的にはそこまで変わらないと思います。独身の場合も賃貸住宅ですと生きている限り賃料が毎月かかり、持ち家であればローンが終わればリスクを抑えられる点は同じですから、単身であってもどこかの段階で持ち家を取得することを検討していいと思います。お子さんがいらっしゃらない場合は子持ち世帯では大きい40代、50代の教育費の支出がそもそもないわけですが、それ以外の支出を見ても子持ちでも独身であっても年齢とともに少なくなっていますから、現役時代の支出がずっと続くという前提で老後に備えておく必要はありません。


――男女で高齢期の就労や生活に違いはありますか。

坂本 いま30〜40代の世代が高齢期に入ったときに男女で差が大きく出るとは考えにくいです。現在の70歳男性の就労率は5割弱ですが、その人たちが経験してきたように、30〜40代は仕事に邁進して一定の負荷の仕事でがんばり、50代頃から社会状況や自身の体調が変化するなかで意識を変えながら、徐々に負荷も責任やストレスも少ない、「小さな仕事」に移行していくという風になるでしょう。ただ平均寿命・健康寿命は男性よりも女性のほうが長いですから、定年以降も無理せず働ける期間が女性のほうが長くなります。


――今は高齢者女性の就労率は男性より低いですが、将来的には働く高齢者女性のほうが目立つようになるかもしれないですね。地方と都市部では違いはありますか?

坂本 結果的にはそんなに変わらない気がします。都市部のほう地方よりもが生活費は高いですが、その分、働いたときの時給も高いですから。また、近年は人手不足により短時間労働者の時給はかなり上昇しています。特に地方を中心に、今後ますます時給が上昇していくと私は考えています。そういう意味では、将来の高齢期の就労環境はいまよりもっとよくなるはずです。

「小さな仕事」で長く働き続けるためには


――すでに非正規雇用でずっと来ている就職氷河期世代であっても、60代以降、なんとかなるでしょうか。

坂本 本当にずっと非正規であったり、働いていない期間が長い方は、60代以降も相当稼がなければいけないでしょう。国民年金では受給額は月6万円程度です。70代以降の一世帯(二人以上)の支出の平均は約30万円ですので、厚生年金をもらっている世帯の「月10~15万稼げば十分」という状態とは異なります。厳しい時代背景を受けて不遇な環境に陥ってしまった方への支援は、国全体として考えていかなければいけません。


――取材の過程で、生活がどうにもならなくなっている高齢者の方はいましたか。

坂本 今回は働き続けている人を対象にインタビューをしましたので、そういう方は対象にしていません。生活保護を受けている人も近年増えていますし、そういった方々が一定数いらっしゃることことは間違いありません。このような方々の福祉をどう設計するかはまた別の問題として重要な課題です。あくまで『ほんとうの定年後』に書いたことは、本の制約上、全体の約8割に当てはまるモデルケース、多くの人が辿る道を提示しているにすぎません。その中間層の話としてはそこまで外れてはいないのではないでしょうか。


――長く働くことの障害になるものには、どんなことがありますか。

坂本 まず健康が第一です。無理をしてまで仕事をするような選択は勧められないですし、社会全体としても誰もが無理なく働けるような環境を作っていく必要があるでしょう。また、働く当事者が職務内容や収入といったそれまでの自分の姿に固執したりする場合もあります。70〜80歳まで働くとなれば、自身の体調の変化、社会環境の変化に誰しもが直面します。そこで「自分はこうだから」とか「そんなことは今さらできない」というスタンスを貫こうとすると長く働くことはかえって難しくなります。身体や環境の変化に合わせて自分の考えや働き方、仕事内容を柔軟に変化させていくことが、結果として「小さな仕事で、長く働き続ける」という良い選択につながると思います。

30〜40代がいまから知っておくべきこと


――60代以降に向けて、若いうちから備えておいたほうがいいことは?

坂本 これまでの成功モデルが通用しなくなってきていることは認識したほうがいいでしょう。「現役時代に一生懸命がんばり、役職に就いて定年になったら上がり」というキャリア観は今後通用しなくなってきます。60代、70代、場合によっては80代になっても「(小さな仕事であっても)長く働き続ける」という考えでいたほうがいい。それに伴って、企業の中におけるキャリアパスもおそらく変わってくるはずです。ポストを勝ち取った人もそうでない人でも、一定期間をすぎると一プレイヤーに戻ってくる――「管理職で役職を持って働くのは人生の中ではごく一部だ」という見方が実態に即したものになってきます。つまり歳を取ったら管理職を降りる。ですから、50代を超えたくらいから、いつでも現場に戻って仕事ができるという前提でのキャリア設計、人生設計が個人レベルでも企業の側にも求められるようになるでしょう。


――最近よく副業について言われますが、老後に備えて副業するなり資格取得なりをやってみておいたほうがいい?

坂本 老後に向けて何か専門性を身に付けることもひとつの手段です。ただ、厚生年金の受給を前提とすると稼ぐべき金額は一世帯で月10万円弱とそんなに多くありません。ですから、誰にも替えが効かない技術を持つというレベルを目指す必要はなく、普通に職が得られるレベルのものでも良いと思います。起業・独立する必要まではないにしても、一プレイヤーとして仕事があり、利益を上げられる状態を保つことが大事です。管理能力だけでは高齢期の就労は務まらない、ということです。


――『ほんとうの定年後』は、高齢期の話を書いている本には珍しく資産形成の話題がまったく出てきませんよね。そこまで備えていなくても、ずっと働き続ければなんとかなるということでしょうか。

坂本 「高齢期の仕事」に焦点を当てたからです。日本経済全体を考えたときに、資産形成は個人の観点では大事なのですが、それだけでは経済は回っていかない。生産する人と消費する人が両方いないと経済は成り立ちません。たとえば定年をすぎたら誰も働かなくなり、お金だけあるという状況になったとします。人口動態が一定の場合であればそれでも経済は回るのでしょうが、急速な少子高齢化が進行する現代の日本社会において、サービスの担い手や製品を作る人の絶対数が不足すれば、物価は上昇し、経済は混乱するでしょう。高齢者が増えていく日本では「お金があるから働かないでいい」ではなく、高齢者が財やサービスを生産する担い手として無理なく貢献することが社会を支えることにつながる。そういう姿を前提に考えざるをえません。


――最後に、60代以降の人生についてめちゃくちゃ楽観視している人とめちゃくちゃ不安だという人に、それぞれ一言ずつお願いします。

坂本 楽観視している人は……そんなに多くはいない気がしますが、「歳を取っても働き続ける」という現実があることは頭に入れておいてほしいと思います。「ある年齢で上がってあとは悠々自適」はおそらく通用しない。

一方、不安になっている人は多いと思います。まずは現実をしっかりと知ることが不安の軽減につながります。実際の支出の額を統計で見るとそこまで多くない。あるいは、現役時代と同じくらいハードに働かないといけないわけではないこと。高齢期の人がどんな風に、どういう気持ちで働いているのかも本に詳しく書きましたが、そういうリアルな実態を知ってもらえれば、過度に恐れることなく適切な準備ができると思います。


少子高齢化に伴って、個々人が直面する経済状況は少しずつ厳しくなるとは思いますが、そんなに悲惨な未来でもない。未来のことは見えないがゆえに不安になりますし、悲観的な考えが広まってしまう。しかし、データをつぶさに見ていくと、実際には無理なく働くことを受け入れさえすれば、そんなに大変なことにはならない。それが『ほんとうの定年後』の答えなんだろうと思います。


前編「『70歳の半数以上』が働く時代に突入する…若者も知っておきたい『人生100年時代の実態』」では、定年後の就業率や稼ぐべき額、働くモチベーションの変化、持ち家と賃貸どちらがいいのか、などについて語っている。



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