人生の幸福度は「82歳以上」が最も高い?高齢者ほど幸せな「エイジングパラドックス」が起きるワケ
- 鈴木茂
- 2023年4月12日
- 読了時間: 4分

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肉体的な衰え、経済的な不安、大切な人の死……。老後のことを考えると、こうしたネガティブなイメージばかり頭に浮かばないだろうか? しかし最新の研究で、「年をとればとるほど幸福度は高まる」ことがわかってきた。著書『70代から「いいこと」ばかり起きる人』(朝日新書)を上梓した、精神科医で老年医学の専門家でもある和田秀樹氏が、この「エイジングパラドックス」と呼ばれる現象について解説する。 ---------- 【マンガ】5200万円を相続した家族が青ざめた…税務署からの突然の“お知らせ”
幸福度が最高値に達するのは「82歳以上」

「年をとると頭も足腰も衰え、家に閉じこもりがちになる」 「病気がちになり、少ない年金でつつましく暮らすことになる」 こうしたネガティブなイメージばかり頭に浮かび、幸せな高齢者像を思い描けない人は多いと思います。 それをくつがえすような事実が、米ダートマス大学の経済学者、デービッド・ブランチフラワー教授の研究で明らかになりました。 この研究は、世界132か国を対象に、人生の幸福度と年齢の関係を調べたもの。結果は明らかでした。人生の幸福度が最高値に達するのは、82歳以上だということが判明したのです。 ようするに、年をとればとるほど幸せになる、ということです。 この現象は「幸福のUカーブ」と呼ばれています。人の幸福度は18歳から下がり始め、47~48歳で不幸のピークに達したのち、ふたたび上がり始める。その軌跡がアルファベットの「U」を描くことからつけられた名称です。 興味深いのは、この「幸福のUカーブ」は先進国でも発展途上国でも、欧米でもアジアでも変わらず、世界共通であることです。社会の状況や人種とは無関係に見られる現象なのです。 もちろん、日本も例外ではありません。幸福度がもっとも低いのは49歳、もっとも高いのは82歳以上という結果が出ています。
年をとれば誰でも自然と幸せになれる
全米で話題になったという『ハピネス・カーブ』(日本版:CCCメディアハウス)の著者、ジョナサン・ラウシュ氏は、年をとるほど幸せになる理由について、次のように述べています。 「(年をとると)ハピネス・カーブ(=幸福のUカーブ)が上昇するのは、自分の価値観が変化し、満足感を得ることがらが変化し、自分という人間のありようが変わるからである。 自分が変わることで、老年期になってからも思いがけない充足感を得ることができるようになったり、自分の抱える弱さや、病気まで受け入れられるようになったりするのである」 実際、老年医学の現場に携わっていると、どこか飄々としている高齢者にお会いすることがよくあります。若いときには、きっといろんな苦労もあったでしょう。なのに、どうしてこのような空気感を醸し出すことができるのか、不思議だなと思っていました。 しかし、この説明を読んで、ストンと腑に落ちました。人はもともと、年をとるほど幸せになるようにできているのです。そういう生きものだ、と思っておけばよいでしょう。 幸せの青い鳥がどこかにいると思って、あくせくしなくても、年をとれば自然と幸せになれるのですから、老後のことをあれこれ気に病んで、ネガティブになる必要はありません。 「人生はこれからもっとよくなる!」 そう信じて、いまこの瞬間を楽しんでください。
世界で研究が進む「エイジングパラドックス」
このように、年をとればとるほど幸福感が高まることを、心理学の世界では「エイジングパラドックス」(加齢の逆説)と呼んでいます。 年をとれば、身体的な衰えや、大切な人の死などを経験するにもかかわらず、幸福感は高まっていく。この「パラドックス」を科学的に解明するために、世界中で研究が行われています。 エイジングパラドックスが起こる理由として、現在もっとも広く受け入れられているのは、米スタンフォード大学の心理学者、ローラ・カーステンセン氏の「社会情動的選択性理論」です。同氏は、18歳から94歳までの被験者を10年にわたり追跡調査し、この結論にたどり着いたといいます。 ごく簡単にまとめると、人は人生の時間に限りがあると知ったとき、残された時間で満足できるよう、喜びや安心といったポジティブな感情を高める行動を自然に選択するようになる、という考え方です。 カーステンセン氏の分析によれば、若いうちは、人生は永遠に続くものだと思いがちです。だからこそ、あらゆる情報を吸収しようとし、さまざまなリスクをとったりします。 もしかしたら楽しいのでは、学べることがあるのではと期待して、好きでもない人と、一緒に時間を過ごそうとすらします。うまくいかなければ、明日があるさ、と思えるからです。 しかし年をとると、自分は永遠に生きられるわけではないと認識します。すべてのことをしている時間はないとわかり、優先順位がはっきりします。細かいことはどうでもよくなり、より人生を味わいつくそうとします。自分が大切だと思えることに、残されたリソースを使おうとします。 結果として、年をとると毎日の暮らしが楽しくなり、より幸せになる――。それが、カーステンセン氏が提唱する「社会情動的選択性理論」です。 私たちはもっと、年をとることに対してポジティブになってよいのです。
和田 秀樹(精神科医)
4/12(水) 11:03
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