top of page

「非正規公務員は仕事をしない」ーー「公務員制度の歪み」が非正規職員と正職員の分断を生んでいる

  • 執筆者の写真: 鈴木茂
    鈴木茂
  • 2023年4月1日
  • 読了時間: 7分

先日公開した筆者の記事「『正職員に嫌われたら終わり』非正規公務員の苦悩」に関して、正規の公務員とみられる読者から、以下のような趣旨のコメントが寄せられた。 【写真】「正職員に嫌われたら終わり」非正規公務員の苦悩 〈正職員はひんぱんな異動や残業に耐えているのに、非正規公務員は嫌な仕事を正規に押し付ける、やる気のない人が多い。中には多くの賃金をもらっている人もいる。非正規だけがかわいそうと印象付けないでほしい〉


■「給料分の仕事しかしない」には理由がある  

九州の自治体で3月まで、非正規の「会計年度任用職員」として、ある支援機関の相談員を務めていた鈴木さん(仮名・50代)は、「正職員が『非正規は仕事をしない』と不満を持つのはわからないでもない」と話す。

 特に働き始めて3年目、5年目などで有期雇用の期限が終わりに近づくと「来年以降はこの職場にいない」と割り切って、負担の重い仕事を別の人に回したり、好きなときに年休消化の休みを取ったりする人もいるという。  「ただ、正職員と同じ仕事をしているのに月収10万円そこそこで、翌年も継続して働ける保証もないとなれば、大抵は『給料分働けばいい』と思うのではないでしょうか」  鈴木さん自身は「相談に来る利用者が、不利益を被ってはならない」という思いから、身を入れて業務に取り組んできた。しかし非正規の同僚からは「あなたは仕事をしすぎですよ」と水を差され、正職員からは「週4日勤務って魅力的ですよね」と言われる。


 「正規非正規にかかわらず、やる気のある人は仕事をするし、しない人はしないので、『どちらが悪い』とは言えません。ただ正職員は仕事をしなくても雇用が守られ、待遇もいい。仕組みの中に格差と差別があるので、お互いに信頼関係を築けないのです」  鈴木さんは3年前に相談員に採用されたとき、「任期5年」と言われていた。それが今年1月、急に上司から「実際は3年だったので、3月に公募を受けて」と言われた。待遇の低さに加えて「非正規があまりに軽んじられている」と失望し、退職した。


 「利用者さんには申し訳ない気持ちです。『なぜ辞めるの?』と聞かれるたびに、公務員の仕組みのおかしさを知ってもらいたいと思いながら、あいまいな説明を繰り返しました」  冒頭のコメント主が指摘するように、専門職などの中には、20万円以上の月収を得ている非正規公務員も存在する。しかし自治労連が2022年、会計年度任用職員約2万人に実施したアンケート調査によると、回答者の約6割が年収200万円以下だった。


 労働者の待遇改善に取り組むNPO法人「ASU-NET」副代表の川西玲子氏は、公務員の正規・非正規間で対立が生まれるのは、待遇の格差が労働実態と関係なく「公務員試験に合格しているか、していないか」だけによるケースが多いことが一因だと指摘する。  前述した自治労連の調査では、回答者の5割が自分の仕事を「正職員の補助的業務」と回答した。しかし一方で「正職員とほぼ同じ」「正職員の指示を受けない専門業務」との回答も、計4割に上った。


 特に教員や保育士などには、正規の職員とほぼ同じ仕事を担う人が多い。相談業務などでは非正規職員のほうが、専門資格や豊富な経験を持つ場合もある。にもかかわらず所得水準と雇用の安定度は、非正規と正規で段違いの差が出る。  「正規職員は『待遇が低いのが嫌なら、試験にパスすればいい』と思い、非正規職員は『同じ仕事をしているのに、1回試験にパスしただけでこれほど大きな差があるのはおかしい』と思う。両者に見えている風景は、まったく違っているのです」

 川西氏によると、3年ごとに公募に応募し選考をくぐり抜けなければならない会計年度任用職員制度が2020年に導入されてから、非正規側の不公平感はさらに強まり、分断は顕著になっているという。


■3年間で2度雇い止めに…人事評価も不明確  

労働弁護団が2月に開いた非正規公務員に関するシンポジウムに、非正規の立場で10数年間、公立高校の教師を務める男性が登壇した。男性は正規の教員とほぼ同じ仕事をして部活の顧問も務め、100時間もの残業をこなす月もある。しかし産休教師の代替のため、休んでいた教師が復帰すると年度途中に失職する恐れがある。


 「親が私の扶養に入りつつあり、失職すると生活に困るので、何とか別の職場に移れるよう校長に頼んでいます。毎年教員採用試験を受けていますが、長時間の残業がある中で勉強をするのも難しい」と語った。  正職員になりたくても、年齢制限がネックになる場合もある。東北地方のある自治体で公立図書館の司書を務める男性(40代)は、民間企業で10年以上勤務した後、3年前から公立図書館で会計年度任用職員として働き始めた。


 しかし昨年3月、前職の図書館を雇い止めされ、その後勤め始めた別の自治体の図書館でも今年、再び雇い止めを通告された。それでも、小学生から高齢者までさまざまな人と関われる仕事にやりがいを感じ、新たな司書の求人を探している。  給与は手取り12万円弱。単身で実家住まいなので生活は何とか成り立っているが、貯蓄に回す余裕はない。「親亡き後や自分の老後を考えると、正職員になりたい」と希望する。  「何よりも雇用を安定させたいので、正職員の求人があれば遠隔地でも応募するつもりです。ただ司書は正職員の募集自体が非常に少ないし、40歳を超えると採用はかなり厳しいと実感しています」


■人事評価の根拠が不明確でも泣き寝入り  

また男性は、雇い止めされた職場での人事評価がわからないことにも「モヤモヤ」を抱えているという。いずれも仕事中、特に厳しく注意を受けるようなことはなかったが「能力が足りない」と説明された。最初の雇い止めの際、組合を通じて人事評価の開示を求めたが、守秘義務を理由に拒否された。  「入職したてで不慣れなため未熟な部分もあったと思いますが、評価がわからないままでは、自分に何が足りなかったのか、どこを改めるべきなのかも知りようがありません」


 ASU-NETの川西氏も「『人事評価』『公募の結果』は闇の中で、行政の側にこれらを主張されると、たとえ上司の好き嫌いや、労働組合と関わっていることへの反感など恣意的な判断があったとしても、立証するのは至難の業です」と嘆く。  非正規も含め、地方公務員は不当な処遇を受けた場合、各自治体の人事委員会・公平委員会に審査などを請求できる。しかし、生活を維持するため職探しに追われて、申し立ての余裕がない人、申し立ての制度そのものを知らない人も少なくない。


 民間企業では今、非正規の待遇改善の動きが広がりつつある。小売業のイオンリテールは、パート従業員に売り場責任者など裁量の大きな仕事を任せるとともに、一定の条件を満たした人については、賃金や手当てを正社員同等に引き上げる取り組みを始めた。  川西氏によると、公務員は従来「試験にパスした」ことにプライドを持ち、非正規の登用に消極的だったという。しかし自治体で非正規の離職が相次ぎ、欠員のため市民に行政サービスを提供できなくなるケースも現れている。


 このため「能力が実証された非正規職員は正規に登用する、1年、3年といった有期雇用から無期雇用への転換ルールをつくるなど、対策の必要性も次第に認識されるようになってきました」。  ただ非正規の労働環境改善には、正職員との協働が不可欠だとも指摘する。  「非正規のみ所属する組合の運動だけで、事態を動かすのは難しい。正職員に非正規の労働実態とそれに合わない処遇を伝えて『それはひどい、改善すべきだ』という共感を広げ、連携した取り組みでともに改善を訴えることでこそ、実現に向かいます」


■誰もが「非正規はいらない」と思っている  

相談機関を3月に退職した鈴木さんには高校卒業後、正職員として市役所に勤務した経験がある。  「私も正職員として働き続けていたら、公務員の常識が社会とずれていることに気付かなかったかもしれない。正規と非正規が不満をぶつけあう不毛な関係を終わらせて、ともに制度そのもののおかしさに目を向けて欲しい」と訴えた。  冒頭で紹介した投稿者も、以下のような趣旨の要求をしていた。

 〈非正規はいらない。正職員を増やしてほしい〉  非正規、正規という「身分」の解消。結局のところ、誰もがそれを望んでいる。


有馬 知子 :フリージャーナリスト

4/1(土) 7:02

Comentarios


​264-0025 千葉県千葉市若葉区都賀5-9-3

©2022 by 鈴木茂税務経営情報提供事務所. Proudly created with Wix.com

bottom of page